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セッション
植物から但馬を見てみると  菅村 定昌 氏
1.植物から但馬を見てみると
2.日本の生物多様性を支えるもの
3.但馬の植物
4.かつてない危機にさらされる植物
5.私たちにできること
2.  日本の生物多様性を支えるもの

日本は生物多様性が非常に高い場所です。生き物は、その土地の地史や気候、人の活動を反映した歴史の産物でもあります。それぞれの場所にそれぞれの生き物がいる。それぞれの場所に固有の歴史があるのです。

植物の分布に大きく影響するものの1つが気温です。緯度が1度北に行くと、標高が100m高くなるのとほぼ同じくらい気温が下がります。緯度1度分は約100kmなので、100kmが高さ100m分に相当します。標高が100m上がると気温は0.5~0.7°C低くなります。今は氷河期の間の間氷期ですが、日本は南北に移動が可能な地形なので、南方系の生き物は氷河期には温かい南へ逃げていくことができます。植物の場合、年間で40~500m、最大でも2km以内ですが、植物も移動します。ただし、コンクリートにおおわれた部分は移動できないので昔と違って今は移動できない場所があります。今は人間の活動も植物の分布に大きな影響を与えているということです。

氷河期と間氷期はおよそ10万年周期でやってきています。最終氷河期は、今から2万年前から1.5万年前で、中でも一番寒かったのが1.8万年前だそうです。南方系の植物は、寒冷になるとより南の方へ移動し、温暖になるとまた北に広がるといったことを何度も繰り返します。北方系の植物は逆の動きをします。ヨーロッパの場合は、高い山が邪魔をして南下ができずに南方系の植物は絶滅してしまいましたが、日本の場合は、山脈が南北に延びているために長距離の植物の移動ができました。それで、氷河期の最盛期にも紀伊半島などの海の近くに南方系の植物が生き残ることができました。そんな場所をレフュージアと呼びます。南方系の植物は暖流が流れる南の端に、北方系の植物は高い山の上部に残り、それぞれが独自の進化をしました。こんなことを氷期ごとに繰り返しています。そんなふうに、複雑な歴史的経緯があって今があります。それぞれの場所にそれぞれの個性を持った生き物が残っているのです。

雨の量も影響しますが、日本の場合はどこもよく降るので極端な影響はありません。その他、石灰岩、蛇紋岩など一部の植物しか生きられない特殊な土壌、塩分や多

雪などの環境も影響します。日本海がなかったころから生育していた大陸由来の植物や、北方由来のもの、南方由来のものもあって、多様な風土が多様な植物分布を作り出しています。

兵庫県の大きな特徴は、「氷上回廊」という日本一標高が低い分水嶺があることです。この分水嶺は標高95mという非常に低いもので、植物が山越えして太平洋側から日本海側に移動できる珍しい場所です。例えば、カナメモチなどは、この氷上回廊を通って紀伊半島などの南側から若狭湾まで到達しました。

人間の活動も植物に影響を与えています。江戸時代、日本の山はほとんどがはげ山で、今とはまったく違う状態でした。木は煮炊きに使われるだけでなく、炭にされたり、製鉄や塩作りなどの燃料に使われました。草は肥料や飼料として使われてきました。また、焼き畑も作られていました。山の緑は限界まで利用されていて、木が大きく育つ余裕はなかなかありませんでした。昭和30年代以降、山の緑はどんどん豊かになり、今は有史以来最も山に緑の多い状況なのだと思います。

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