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分水嶺を超えた社会の福祉  西池 匡 氏
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私に最も身近で、最も切実な現実の問題はなんだろか、と考えたとき、寺の住職として実感していたことは、「多死社会」「無縁社会」という問題でした。10年前とくらべると、2倍くらいの人が亡くなっていく(檀家数が減りますと、私の収入も減りますから、生活に密着して切実なんです)。また、地域のコミュニティのつながりがどんどん希薄になって、社会との縁を持てない人が非常に増えてきている。この二つが私にとって最も現実的で差し迫った問題でした。

できることから取組んでいこう、そんな思いで、仲間たちと最初に立ち上げたのが、「NPO法人ダーナ」でした。2002年に「アネシス」という小さなグループホームをまちの中につくりました。隔離されたような場所ではなく、地域の普通の暮らしの中に。

そして、「シカバレー」という高齢者福祉施設、多世代共生型の福祉ゾーンをつくったのが3年前のことです。このときも、私たちには明確なビジョンがありました。福祉サービスを切り売りするのではなく、地域のきずなとふれあいを大切にしよう。人とだけつながるのではなく、すべての命と連なり支え合っていこう。多様な命のつながりをみつめて、自然とも共存していこう。

この無縁社会の中で、私たちはご縁をつないで、結んで、福祉の理想である”ゆりかごから墓場まで”生まれた命をはぐくみ、老いをいたわり、病をいやし、死をみおくっていく総合的な活動を展開していこうと決めたのです。一言でいえば、「新しい居場所をつくる」ということです。新しい縁を結んで生きていくんだと。このことこそが、分水嶺を超えた社会に生きる私たちが目指すべき、新しい人間のあり方であり、真に新しい未来の地域社会のあり方であろうと思うからです。

シカバレーの意味ですか?はい、鹿がようけおる(たくさんいる、の意)、鹿が元気に走り回っている田舎の谷、ということではなくて(笑)、一応ちゃんと意味があります。日本の福祉の原点は聖徳太子にあると言われていますが(ちなみに、国家の原点も聖徳太子にあると言われます(※))、この聖徳太子が、総合的救済施設として、大阪の四天王寺につくったとされている「四箇院(しかいん)」からとったものです。四箇院は4つの建物(敬田院、施薬院、療病院、悲田院)から成っていました。寺院であったり、現代の薬局や病院の役割を果たすものであったり、病者や身寄りのない老人などのための施設であったり。本当に、今日の言葉で言うところの社会福祉施設だったんですね。

(※)聖徳太子は一七条憲法の中で「以和為貴。無忤為宗。」(和をもって貴しとなし、さからうこと無きを宗とせよ)と、現代に至るまで日本人の心を示し、国家、社会、地域のあり方の基本を示されました。この和国の教主たる聖徳太子がその理念の実現を目指して創られた四箇院は、生老病死に苦しむ人々を幅広く救済するための総合施設であったといわれます。
(シカバレー公式HPより)

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