セッション
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下り坂をそろそろと下る 平田 オリザ 氏
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コンテクストや文化の「違い」と「ズレ」 先ほどの列車のシナリオでは、コンテクストがわからないことから来る違和感に気付くことができます。コンテクストとは文脈、つまり話し手がどのような「つもり」でその言葉を使ったかということです。
このようなズレは異文化交流にも現れます。たいていの国は隣の国と仲が悪いものですが、これは文化が近すぎるためです。その文化を知らないとわかっていれば問題が起きにくいものですが、同じような文化を一部共有していると、少しのズレをとらえて、野蛮だとか悪意があるように考えてしまいがちです。これが文化の近い国と交流する難しさで、「違う」ということから始めないと大きな問題になります。自分の文化を相手に強要する客観的合理性はないはずですが、このようなストレスが積もり積もると何かのときに噴出してしまいます。そうならないように、日ごろから交流して違いを顕在化させることが大切です。 コンテクスト理解とこれからのリーダーシップ 良いコミュニケーションとは、話し手のコンテクストを受け止め、それを受け止めていることを伝えるようなコミュニケーションです。相手から発せられた言葉や問いにいくら正しく答えても相手が満足しないことがありますが、これはコンテクスト理解が妨げられてコミュニケーション不全が起こるためです。大阪大学は、患者や家族の辛い気持ちを汲み取って会話できる医師を育てたいということで私が関わるようになりました。
リーダーシップ教育が必要と盛んに言われ、リーダーと言えば引っ張る人のように思われがちです。しかし、これから求められるのは、社会的弱者のコンテクストを理解して気持ちを汲み取る能力のあるリーダー、鷲田清一さんは「しんがりのリーダーシップ」と表現されていますが、これからの長い長い後退戦を戦っていくにはこのようなリーダーが必要です。そうでなければ、この国はものすごく冷たい国になってしまうと思います。 → 次のページ
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