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アルメニア <十字の石> を訪ねて  長岡 國人 氏
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アルメニアでの拓本プロジェクトについては、今日は会場に拓本の実物を一つ飾らせていただいてますし、写真もたくさん持ってきましたので、それを見ながらお話したいと思います。ほんとはもっとたくさん見ていただきたいんだけれどね。

改めて言いますが、「十字の石」は墓碑、お墓です。数え切れないくらいあります。アルメニア国内だけでなくトルコやアゼルバイジャンにも数多く散在していて、その多くは破壊され消滅の危機にあります。アルメニアにあるすべての「十字の石」は2010年にユネスコの世界文化遺産に登録されていて、世界に例のない人類の財産です。が、誰もその数を把握していない。
荒野にぽつんと立っていたり、たくさんまとまって立っていたり、教会の壁の一部としてあったり、修道院の床になっていたり、様々。この写真では教会の外壁の石に、十字の石が掘ってありますね。巡礼者がこの教会に来た証として職人に彫らせたものです。

それから、「十字の石」の「十字」は、キリスト教のいわゆる「クロス」ではありません。キリスト教以前にアルメニアにはすでに十字のシンボルがあったんですからね。植物をモチーフにした、より原始的で象徴的な十字です。僕の考えでは、縦に伸びる線は「生命」を、横の線は「大地」を表現しているように思えます。

アルメニアでの拓本プロジェクトは、2012年からはじめました。2011年には事前調査として最初の訪問もしてもいます。2016年までの5年間のプロジェクトとしてやります。簡単に説明することが難しいんだけれど、『この世に人の名がある限り~As long as the names still continue~』というフレーズに、僕の思いを込めて皆さんにもお伝えしたいい。さっきもちょっと触れたんだけれどさ、墓地・墓碑は、人が死んでその人がこの世に生きた証が記される最後の場所でしょ。「死者を弔う文化が凝縮した場所」ね。

この、人類に普遍的なテーマを、世界遺産を対象にして、東洋の伝統的・アナログな印刷技術である拓本で、「手」で記録していくこと、そのことによって「光」を見出すこと、後世につないでいくこと、残していくこと。全ては滅んでしまう、だからこそ、僕は版画家だからさ、「拓本」で残していくことが使命だと思っているのね。

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