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ニッポンの里山  小野 泰洋 氏
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番組で取り上げた各地の里山をご紹介しながら里山の価値を6つ挙げてみたいと思います。

里山のチカラ① 美しいニッポンの原風景

新潟県十日町市では、ブナの原生林を開いた棚田があります。雪解け水を使うこの棚田では、田植え前と稲刈り後に水を張ります。山形県飯豊町には、防風のための屋敷林が点在しています。このまちでは看板を立てさせていません。熊野古道は民家の中を通っています。人が住まなくなると、風景が変ってしまうかもしれません。

茅葺屋根で有名な京都府美山町。伝統的建築物である茅葺の屋根を残すため、このまちでは茅場を維持しています。茅場には、獣の害を防ぐという重要な役割もあります。獣と人の領域を区別するラインとして機能しているため、これがなくなると獣がラインを超えて出てくるようになります。

山形県横手市には“いぶりがっこ”という大根の燻製があります。燻製には山桜やナラなど、雑木林の広葉樹が必要です。人が山の際で、大根を育てるために山を育てているのです。山際で人が働くことで、熊が里に出にくくなります。

里山のチカラ② 共生の知恵

里山の自然は、人による「ほどほどの撹乱」が生んだ自然です。生きものたちがそれを巧みに利用し、あたかも示し合わせたかのような関係が生まれています。

「撹乱」というのは、自然界でも昔から起きていました。白馬村では人が森を破壊して田んぼを作り、水路を作って田んぼに引きましたが、結果的に氾濫を起こした河原と同じ働きをしています。毎年春になると水が引かれて水辺ができ、草が生えて湿地となり、稲が育つと草原ができ、やがて枯れます。これは撹乱をうまくコントロールしているのと同じです。

広島県尾道市には「ひよせ」と呼ばれる温水路があります。尾道は絶滅危惧のゲンゴロウを守るために農薬などの使用を控えていて、コウノトリ米に対抗して(笑)ゲンゴロウ米として売り出しています。ゲンゴロウは、緩やかなよどみや水たまりに棲んで、田んぼのあぜにもぐってさなぎになります。水を抜くときには「ひよせ」に移り、冬の間にはため池も必要です。

田んぼとアキアカネの関係はご存知でしょうか。ヤゴの間は水中に棲み、稲に上って羽化します。そして山で夏を過ごしてまた田んぼに戻ってきます。田んぼのサイクルにぴったり合っています。

熊本の阿蘇山では、牧草地を育てるために野焼きをします。草原は放っておくと潅木だらけになりますが、野焼きをすることで大きな木が育たずに小さな植物が育ちます。牛の嫌いなアクの強い植物を食べて育つシジミチョウの一種や、糞を分解して草原の栄養にする糞虫なども共生しています。

静岡県のお茶の産地では、茶畑の横に茶草場と呼ばれる草地があります。ここの草は刈り取って、茶畑の間の敷き草として使われます。茶草場には、今では貴重となった昔ながらの野の花がたくさん見られます。ここは、いわば「里山の世界遺産」ともいうべき世界農業遺産に選ばれています。

大分県では、シイタケ栽培のほだ木にクヌギの木を使います。10年育った木を毎年伐採していくので、10段階の林ができています。つまり、10年分のいろんな環境が用意されていることになります。木は10~50年ぐらいで切るとひこばえが出てきて、実生から育てるよりも早く木になります。環境が元に戻るように、萌芽更新を利用しているのです。

もし人間が「ほどほどの撹乱」をやめるとどうなってしまうでしょう。岐阜県の揖斐川町に薬草取りの里があります。ここは信長の薬草園があったところで、植物の種類が豊富なのが特徴です。適度に草を刈ることで多様な植生が維持されてきたのですが、国定公園に指定されてから、薬草が取れなくなってしまいました。そのため、国定公園になったことで植物の種類が減ってしまうという事態が起こっています。地元ではその少し下に畑を作って薬草を栽培しています。

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