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ニッポンの里山  小野 泰洋 氏
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里山のチカラ③ モザイク状の生態系模様:いのちの賑わい

『牛が作った森の花園』で取り上げた岩手県岩泉町。豊かな森が健康な牛を育て、山頂の森と美しい風景を作っています。森は、放っておくと藪になり暗くなる一方ですが、牛が下草刈りの役割を担うことで明るい森となり、小さな草花も日差しを浴びて生きていけます。昆虫が集まり、鳥たちが飛び回ります。餌は天然の草と枯れ草。冬が近づくと、急な山の斜面で草刈りが始まります。刈り残したススキで刈った草を括り付けて乾かし、よく乾いたら斜面を転がして麓に下ろします。今ではほとんど見られなくなった光景です。地元では高く売れなかったのが、流通がうまくいくようになり、人気が出てきました。良い牛を育てようとしていたわけではなく、里山の家畜が価値を持つようになってきたというわけです。

里山のチカラ④ ホンモノが生まれる

秋田県の西明寺栗は日本で一番大きな栗です。草刈りや枝打ちをして栗林を丁寧に世話すると、カタクリの群生が広がります。花が咲き、ギフチョウも生きられます。良いものを作ろうとすると、自然も豊かになるのです。

秋田県三種町ではジュンサイを作っています。光が水の中に入る酸素が豊富な水辺を維持しているため、ゲンゴロウやメダカなど、いろいろな生きものが棲んでいます。

京都の北山杉。実は以前は「杉」をバカにしていましたが、北山杉を見て考えが変わりました。山の斜面を効率的に使えるように密植し、丁寧に枝打ちされた枝は腐って堆肥となります。光が差して他の植物も生え、まるで自然林のような趣きで、オオサンショウウオまで棲んでいます。良いものを作ることと里山を豊かにすることは、別々のことではないのです。

里山のチカラ⑤ 日本人の自然観を育む

豊岡の方にはまさに釈迦に説法の話ですが、日本には、生きもののことをちょっと考えて譲る習慣があります。まさに自然をめぐる文化です。

福井県にはケリが子育てする田んぼがあります。人々は巣のところを残して田植えをします。香美町には、田んぼの畦に花を植え、お盆などの行事に使っています。

里山のチカラ⑥ 国土保全の手助け

里山には、国土保全や防災に繋がる大切な働きがあります。

佐賀県の蕨野にある日本一高い石積みの棚田では、石垣の草取りをするとき、斜面にへばりついて刈り取ります。除草剤を使うと根まで枯れてしまうので、出ている草だけを刈り取ります。全国の棚田に共通しているのは、地すべり地帯であるということです。地すべりで偶然、裸地ができたので、それをうまく使って棚田にしたのです。蕨野では、出てきた石で石垣を組んで棚田を作っていて、山全体が水がめの機能を果たしています。棚田は、水の清らかさを保ちながら防災に役立っているのです。

岩手県一関市に、「樹木葬」という新しい保全方法に取り組んでいるお寺があります。杉林だったところに墓地を作っているのですが、杉の木を切って、代わりに昔から里に生えている木を植えていきます。死んでふるさとの自然に還り、ふるさとの自然を守るという発想です。お寺の入り口には東京大学の研究室もあります。手入れが行き届いた森の中に日本本来の花が咲いています。

環境の「つながり」にも注目してみましょう。静岡県沼津市の西浦は、透明度の高いダイビングスポットです。「海の中で魚がみかんを食べている」とダイバーが教えてくれました。海から反射した陽の光がたっぷり降り注ぎ、甘いみかんが育つ急斜面のみかん畑。畑の地面から浸透した湧き水が海底から噴き出し、集まってきた熱帯魚たちが斜面を転がり落ちてきたみかんを食べています。農家の知恵が山だけでなく海も守っているのです。里山だけでなく、他とのつながりの中で環境を守っていく必要があります。

岩手県の大槌湾には、107の湧き水が海水の中から沸いており、両隣の湾に比べて圧倒的に多くの生きものが棲んでいます。湧き水にはミネラルが豊富に含まれ、プランクトンが集まります。海のミネラルは、川からの供給だけでなく湧き水からも供給されます。だから、山を守ることは海を守ることなのです。陸がダメになると30年後に海もダメになります。海を守るためにも里山を守らなければなりません。私たちの番組は、昔を懐かしむためではなく、未来につなげるために作っているのです。

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