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パスワードを忘れた方
セッション
イマドキの野生動物
宮崎 学 氏(自然界の報道写真家)
1.主催者あいさつ
2.現代人は間接的無意識に野生動物を餌付けしている
3.生き物たちの「匂いの地図」を通して見ること
4.300年・400年の時間軸で見ること
5.今も昔も人は生き物と同じエリアに暮らしている
6.時代を目撃する写真家として現代人に伝えたいこと
「野性を取り戻せ、死を思え、死を忘れるな」
3.  生き物たちの「匂いの地図」を通して見ること

ところで、シカの平均寿命は5・6年です。今現在、長野県だけで200万頭くらいいますから、県内でも相当数のシカが日々死んでいることになる。動物は死ぬと強烈な死臭を出します。死んだ瞬間からあっという間に臭いを発する。その臭いが出るか出ないかくらいの時に、さっと敏感に察知してやってくるのがスカベンジャー(腐肉食動物)です。掃除屋。クマなどがその代表ですよね。彼らは弱った動物の臭いや血の匂いにとても敏感で、容赦なく食らいつきます。「あいつ、もうすぐ死ぬぞ」ということを、彼らは匂いで感知するんです。生き物たちにとっての「臭いの地図」があるんですね。

クマは縄文時代からいました。人間と一緒にずうっと生きてきたんです。「共存」なんて軽く今みなさんは言いますが、共存とは「食うか食われるか」です。クマの手を見たことがありますか、「熊手」と言いますけれど、これがその写真です。クマの爪は普段は毛皮の奥にひっこんでいますが、この鋭いどう猛な爪をクマがどうして持っているのか、僕たちはもっと知るべきなんですね。ドングリを拾ってハチミツをなめてるだけなんかじゃないんですよ、クマは。シカやイノシシを食べている。腐って人が近づけないくらい臭っているシカやイノシシを、がーっと手で担いで、プロレスのようにぶん投げて食べる。

日本の記録に残る中で最大規模の獣害として有名な三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)。大正4年に北海道で起こった事件です、7人殺されたのをご存じですか。300キロ近い大きなヒグマが開拓集落の民家を襲い、女の人ばかり食った事件です。お腹に赤ちゃんがいた女性もいましたが、胎児は食わなかった。当時の民家はほったて小屋で雑魚寝です。女の人の臭いは外に漏れていたでしょうね。臭うんですよね。生きものが「血・腐臭」の臭いに敏感であること、「臭いの地図」があることについては、先ほどお話したとおりです。つまり、女の人の臭いが、オオカミやクマを呼ぶんですね。昔はシャワーもないしお風呂にも毎日入っていなかった、生理用ナプキンなんてものもない。臭いによって、家のまわりにオオカミやクマがたくさん寄って来ていたはずなんです。

僕はこのことを自分の生活の中でも実感していて、僕の犬が、洗濯物の中から嫁のパンツだけを選んでかじっているですよね。それを見たとき、ああ、なるほどと思いましたね。臭いなんです。
僕は「山の神」が見直される時代が来るんじゃないかと思っていますが、山の神を祀るのは女人禁制です。どうして女の人を山に近づけないのか。特に生理のときの女性の匂いが、生き物たちを呼んでしまうからですね。

さて、シキミ、みなさんご存じですよね。仏事に用いられる植物で、お墓に供えられます。このシキミは「悪しき実」を意味するもので、ものすごい毒を持っている。猛毒なので食べたら死にます。江戸時代や昭和のはじめまで、日本では土葬が一般的でした。はい、みなさんもう分かるでしょ。そう、相当「食べられた」んですね。だからシキミがお墓に供えられる。お墓にシキミを供えるのは(死んで土葬された人間がクマに食われるのを防いだ)名残です。

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