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パスワードを忘れた方
セッション
イマドキの野生動物
宮崎 学 氏(自然界の報道写真家)
1.主催者あいさつ
2.現代人は間接的無意識に野生動物を餌付けしている
3.生き物たちの「匂いの地図」を通して見ること
4.300年・400年の時間軸で見ること
5.今も昔も人は生き物と同じエリアに暮らしている
6.時代を目撃する写真家として現代人に伝えたいこと
「野性を取り戻せ、死を思え、死を忘れるな」
6.  時代を目撃する写真家として現代人に伝えたいこと
「野性を取り戻せ、死を思え、死を忘れるな」

僕は20年前にこんな写真集を出しました。「死」の写真集、大作ですよ。人はあまりにも「死」を忘れている。誕生の数だけ死があるというのに。人は妊娠期間と同じ日数をかけて土に還るというのに。生きているものだけの生態学しか人は意識してこなかった。「死」に対して知らん顔をしてきた。けれど僕は、「死」を見つめる視点こそが大切だと思ったんです。「死の生態学」が非常に必要だと思っている。だから僕は、「生」と同時進行で、「死」の写真を撮っているんです。
おもしろいことに、この写真集を出したら、それまで僕の写真を褒めてくれていたファンがいっせいに離れていきました。代わりに、「お、なんだ、宮崎はおもしろいじゃないか」と言って別の人たちが寄ってきた(笑)。

僕の写真はキレイ・かわいいじゃない。意味のある写真なんです。例えば鳥の写真を撮るのが好きな人はたくさんいますね。「ヤマセミのキレイな写真が撮れた!」といって喜ぶ。僕は、ヤマセミのいる「背景」を考える。ヤマセミがどういうところに巣をつくるのかご存じですか。山崩れした場所に巣をつくるんですよね。自然のプログラムの中には、山崩れも組み込まれている。それなのに、人間は山肌が崩れないように、コンクリートで固めてしまう。土砂崩れを防止して、自然のサイクルを止めてしまうんですね。そこにどんな生きものが関与しているかも知らずに。

また、これはアオゲラという鳥です。生木に穴を掘って巣をつくる。木にとってはダメージのはずだと思っていたんです。でもそうじゃない。木にとって悪い患部を「摘出」し、そのうえそこで子育てすることで、糞という栄養を木に与えている。子育てが終わって巣の役目を終えると、このように完全に穴はふさがります。こんな感じで僕は生きもの・自然を見ている。

これは高速道路の風景です。道路沿いのフェンスの上にネットが張ってあります。高速道路を走っていると、いつの頃からかこういうネットが増えてきた。皆さん気がついていましたか? シカは易々とフェンスを跳び越えて道路に出てきてしまうから、その対策なんですね。こういう時代のサインを僕は見逃さない。時代の目撃者。時代を追いかけて僕は写真を撮る。

さて、これからもシカやイノシシやクマは増え続けるのか。山をどう考えたらいいのか。いろんな声が聞こえてきます。僕としては、しばらくは動物個体が多いまま、ますます森が繁っていく状態が続くのではないかとみています。今の状態が100年くらいは続くんだろうと。時間軸を無視した間違ったものさしによる安易な対処法は、もうやめにしなければなりません。自然をどう「見る」か、「死」をどう考えるか、そういうところに僕たちは気がついていければいいかなと思いますね。

最初にも言ったけど、「人も平気で食べられるよ」という当たり前のことを、今の社会は完全に忘れているんですよ。家畜みたいな人間ばかりになっちゃって。生きものと「共存」するってどういうことなのか。僕の写真を見て、その忘れ物に少しでも気がつく人が出てくればうれしいなと思います。

というところで、予定の時間にぴったり2分前ですから、これで終わりたいと思います。続きはこの後の第2部で。ありがとうございました。

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