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日菓のしごと、きょうの和菓子話  日菓
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甲斐:なるほど。お二人の出会いから今の活動につながるまでのことがよく分かりました。確かに、和菓子を写真に撮ると言うと、必ずと言っていいくらい懐紙や塗りの黒いお盆が当たり前のように出てくるんですよね。この状況に違和感を感じるのは私も同じで、お菓子をめぐって日本中を歩く中で、私はそのお店の包装紙をお皿の代わりにして、その場で写真を撮ってきました。

それにしても、お二人がそれぞれにお仕事を持ちながら、ことがあるたびに「創作ユニット」として活動されるというスタイルは、独特のものですよね。

内田 :私たちは、いわゆる「お店」を持っていません。日常的に「お店で売る」ということはしません。イベントや企画に際してテーマをもらって、それに応えるという形でお菓子を作っています。お茶会や引き出物のお菓子、また、パーティなどに合わせてつくることもあります。ギャラリーで作品展をするように、絵のような扱いでつくらせていただくこともあります。

工房は京都北区の鞍馬口にあります。もともとは「茶洛(さらく)」というわらびもちやさんだったところをお借りして、そこをお菓子作りの拠点にしているのです。大徳寺とかの近くです。とても古い歴史のある船岡温泉(温泉ってついてますけれど、温泉じゃなくて銭湯なんですけれどね)の近くです。

平日は二人ともそれぞれ仕事を持っているので、お店を毎日開けて、そこでお菓子を販売することはできない、月に2回(平日と休日)開けるのが精一杯。この写真をご覧いただくと分かるかと思いますが、あんこを炊くお鍋は、この大きさが私たちの持っている最大の鍋なのです。だから大量生産はしません、というか、できませんね。限られた場と人数を対象にやるのが、私たちのスタイルです。

甲斐:私と日菓さんの出会いもギャラリーでした。私は本やイベントを通して、多くの方に素敵なお菓子を紹介する仕事をしていますから、常に新しいお菓子に出会うことには貪欲なんですが、えと、あれは、、、何年になりますかね、2009年ですか。京都、堀川丸太町にあるギャラリー「モーネンスコンピス」で、初めて日菓さんの「作品」を見たんです。「晴れ」「曇り」「雨」「雪」。わー、これ、おもしろーい!って。日菓さんのお菓子に出会って、ものすごく興奮した気持ちになったことを思い出します。

杉山:はい、ギャラリーで見た後は、お抹茶と共に召し上がっていただいて。あのときはテーマが「天気予報」でした。天気予報と生菓子は似ているのです。生菓子は日持ちしない。一日限り、今日限りで消えていくもの、切ないもの。天気予報も今日のものでしかない。明日になればもう今日の天気予報は消えていく。だからこそ、今日の一日をしっかり味わおうじゃないか。明日のことに思いを馳せながら、しみじみ「今という時」を味わってもらおうってことで、「明日の天気を食べてもらう」ことにしたんです。でも、、、お天気って前日になっても定まらなくて変わったりするんですよね、どのお天気のお菓子を用意しようか、明日のお天気を食べていただくなんて言いながら、予報をはずして違うお天気のお菓子を用意しちゃったらどうしようか、って直前まで悩んでましたけれど、でも、もうつくっちゃったしねー、これでお願いします! って本番はうまくいきましたね(笑)。

たとえば、これは「雨かんむり」です。雨が水たまりにぽちゃっと落ちた一瞬の王冠を現しています。これは「くつ飛ばし」。みなさんも一度は子どもの頃にされたと思いますが、お天気を占って靴を飛ばすあの遊びです。下駄がひっくりかえっていますから、この場合は「雨」ですね。だから銘を「雨転(うてん)」にしました。ダジャレです。これは「雪合戦」。雪玉が勢いよく投げられて、そのスピードが早すぎて変形しているところ(アニメでよく表現されるような、変形しながら宙を突き進む球体のようなイメージ)を和菓子にとどめました。

内田:最近の仕事としては、先月、京都芸術センターで行った「明倫茶会」がおもしろかったです。明倫茶会そのものは、もう10年くらいずっと続いているお茶会で、舞踏家や大学の先生など、いろんな分野の方が席主をつとめてお客さまをもてなすお茶会です。今回は私たちがその企画をしました。
知り合いの植木屋さんにお願いして、お茶席の真ん中の畳に穴をあけて、本物の木を植えました。その木に、一つ一つ、お菓子の果物をくくりつけてつるしました。お菓子のルーツは果物です。実際に果実をもぎとってもらって、お茶を飲んでいただこうという趣向です。

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