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日菓のしごと、きょうの和菓子話  日菓
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甲斐:そうそう、明日午前、ここ中田邸でお茶会が行われるんですけれど、実は日菓さんには、明日のために特別にお菓子をつくっていただいてきています。どんなお菓子ができあがっているのか、私もまだ知らないんですよね。
私からはお菓子づくりのテーマとなるキーワードだけを、事前に伝えています。豊岡にはお菓子の神様タジマモリをまつる神社があること、コウノトリを復活させたまちであること、城崎温泉や出石蕎麦で有名な素敵な観光地があること、また、中田さんはハンガーをつくっておられる会社の社長でらっしゃること。

内田:はい、甲斐さんからお聞きしたキーワードから二つを選んで盛り込んでつくってきました。ぜひ明日を楽しみにしていただきたいです。

中田:いやあ、楽しみですねえ。ハンガーに翼が生えてるのかなあ。いや、あんまり無粋なことは言わずに、心から楽しみに明日を迎えたいと思います。
ところで、お菓子をつくるにあたって、お二人はアイデアが先にあるのですか? それとも素材の制約などから決まることが多いのですか?

杉山:空を見ていて、あぁ、なんか雲に穴が空いてるなあぁって思って、そこからインスピレーションを得てつくることもありますし、与えられたテーマから徹底的にコンセプトを抽出して、必死で考えて、考え方を組み立てて形にしていくこともあります。もちろん、素材からデザインを先に考えて決めていくこともあります。羊羹なら、きっちり切り口を見せることができますし、おまんじゅうやういろうなら丸みをもたせることができる、というように。

ただ、どんな場合でもラフ画・デザイン画は書きますね。私たち二人は、お笑い芸人がネタ帳を持ち歩くみたいに、ノートを持ち歩いています。このデザインやアイデアを書き留めたノートは、二人とも、もうかなりの冊数がたまってきています。宝物のようなノートです。
思いついたアイデアを書き留めるだけでなく、言葉をメモしたりもします。私たちは言葉が結構気にかかるのです。言葉に対する「ひっかかり」を大切にしたいと思っています。例えば“おしくらまんじゅう”という言葉、改めて「おしくらまんじゅうとはどういうことだろう」って考えて、概念を再構築するんです。ぎゅうぎゅうに詰まっている状態。箱におまんじゅうが詰まっている感じ。そうやってつくったお菓子が「おしくらまんじゅう」です。

甲斐:この写真のお菓子、本当に“おしくらまんじゅう”してますよねえ、箱いっぱいのおまんじゅうたち、わああ、かわいい!って思っちゃいますよね。
このような言葉のイメージや、言葉遊び、ダジャレのように意味を二重に三重に意味をかけて、私たちを味や見た目のおもしろさだけでなく「知的」な部分でも楽しませてくれるのは、まさに日菓スタイルですよね。

言葉へのこだわりと同時に、和菓子の見せ方・ビジュアルにもお二人は非常にこだわっておられます。一般的に、写真家さんは、建物を専門に撮影する方、食品が得意な方、タレントさんや人物を撮るのが専門の方、というように役割分担がされていて、撮影を依頼する側はその役割に沿って、その専門の方にお願いするのが通常のやり方・常識なのですが、日菓さんは違うんです。日菓さんは、あえて「食べものを撮らない人」にお願いされています。ふんわりした独特の浮遊感のある感じ、かわいい少女が草原を走っているようにも感じられる写真のビジュアルは、そういうこだわりから来ていて、ますます私たちは日菓さんのお菓子の虜になってしまうわけですけれど。

内田:はい、女優やアイドルの自然なポートレイトが得意な写真家、女の子を自然体で透明感のある雰囲気で撮影されることで有名な、新津保建秀さんにお願いしています。「女の子を撮るように和菓子を撮ってください」とお伝えしてお願いしました。この本では80点以上のお菓子を取り上げていますが、撮影には3日を費やしました。とにかく光にこだわって、いい光を待って、自然光だけで写真におさめてくださったことに、心から感謝しています。本当に丁寧に自然光だけで撮影してくださって、私たちのイメージしていた写真に仕上げてくださったのです。

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