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左官のしごと  久住 章 氏
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今日は、僕のやってきた仕事を紹介したいと思います。初期のものから、最近のものまで。写真もたくさんありますので、それを見ていただきたいと思います。

和歌山に川久ってホテルありますね。紫禁城の瓦を使っていて、バブル経済を代表すると言っていい豪華なホテルです。外壁の梁と天井の反り、あれは技術的に非常に難しいもので、いっきに仕上げないといけないんです。だから、60人の左官が三交代で、一日で仕上げました。そう思って、一度みなさんもぜひ見に行ってください。

ホテル内部もすごいんですよ、ホールには、7m40cmの柱が24本、どーんと立っています。大理石に見えますが、大理石ではなく、全て左官仕上げです。柱1本だけでも豪華な家が建つくらいのもんです。石膏擬石技法といって、ウサギの膠(にかわ)で溶くドイツの技術です。白大理石の手前くらいまでつくれるんです。デザインは自由で、継ぎ目なしでつくれますし、自然界にはない模様もつくれる。それを僕は川久の柱でやりました。

この川久の柱をつくる前、もちろん僕は石膏擬石技法なんて実際にはやったことなくて、施主に提案するんだけれど、「ところで、あんた、できるの?」って当然聞かれますよね。「あ、いや、できひんけど、やるで。3カ月くらいドイツに勉強に行ったらできる」と答えました。僕はいっつもこんな感じです。「ああ、だいじょうぶ、できるできる!」ってね。「ええ?!そんなん、どないしてやんの?」って聞かれても、別になんだって難しぃないですよ。なんでも軽く受けます。

そしたら、川久は僕を本当にドイツに勉強に行かせてくれた。で、ドイツに行って、職人のところに学びにいったら「この技術の習得には5年以上はかかる」と言われた。これは無理かなあってその時は思って、3カ月で帰っては来たんですが、その後、腕利きの職人を25人集めて、一年間練習させてくれたんですね。練習の費用全部、川久がポンと出してくれました。ええ時代でしたね、ほんまに。それで、5年かかるとドイツで言われた技術で、川久の柱を計画通り実現することができました。

島根県津和野に、画家・安野光雅の美術館があります。RC(鉄骨)なんですが、漆喰です。ここでは、ナマコ漆喰の中でも最も難しくて時間のかかる技術を採用しました。模様の交わる十字の交差点をVカットするものです。1m²仕上げるのに、1人で15日程かかってしまう。普通の安もんのなまこ漆喰だったら、その半分の日にちでできます。つまり、倍以上の時間と手間がかかるものなんです。

それでも、それが一番いいと思うから、最初に僕が提案するわけなんですが、普通のなまこ漆喰とどう違うのか、絵に描いただけでは伝わりにくい、実物が目の前にないから、知らない人にとってはイメージすることが難しい。それで、僕は、さっとしゃがんで、しめった砂を地面に盛って、それをつくって見せたんです。こんな感じですわ、って。そしたら、それを見て、すぐに「よし、これでやろう!」と決まった。目の前で見本をつくって見せて、いいものを分かってもらって、施主を納得させていくことも、職人の腕の見せ所です。

淡路には瓦メーカーもたくさんあります。ある瓦屋さんの社長のご自宅には、田舎の割には6m×9mとデカい蔵(通常、4m×6mが田舎の蔵のスタンダード)があって、その修復をしました。通常の建築や蔵の場合は、大工が棟梁を努めますが、扉も漆喰で仕上げるような、いわゆる「化粧蔵」の場合は左官が棟梁になるんです。この場合、左官にも図面を描く能力が求められます。左官に図面の能力がないと、化粧蔵はできないんです。

日本の建物には、伝統的に筋交いが入っていませんでした。そのかわり、土壁の下の竹の編み方に工夫があった。この蔵では大阪の一部の金持ちの住宅だけに見られる縄の結び方が見られました。今ふうの言葉で言うと「エネルギー吸収型」なんです。筋交いがないのに、筋交いと同程度の力がある技術なんです。昔の知恵ってね、ほんまにすごいんですよ。

淡路島ではほかにも、早稲田大学の建築科のとても優秀な学生たちと一緒にゲストハウスをつくったりしました。残念ながら、もう壊してしまってないんですけれど。ベッドはススキでつくって、鍵も開けて開放して自由に使ってもらってました。

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