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左官のしごと  久住 章 氏
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中田)どうでしょうか、みなさん、久住さんのお仕事。何でもないことのようにさらっとお話されてますけれど、全て世界レベルです。うちの壁も実は久住さんでして、久住さんとは長いお付き合いになります。壁を塗りながら、横を向いて、久住さんはよくしゃべるんですよ。えー、久住さん、僕の方見ないでいいから、壁見て黙って塗ってくださいよ!ってひやひやするくらい。なのに、そんなことお構いなく、しゃべりながら、ひょいひょい仕上げていく。作業中の会話の中でも、久住さんはボンボン名言をはかれる。傍で聞いていた息子が、久住さんの「伝統は革新の連続だ」と言う言葉に感動して、これはすごいと思って、学校で発表したら先生に「素晴らしい!」と褒められた、なんてこともありました。

はい、そうなんですよ。伝統ってね、大昔にストップしてる技術じゃないんです。まさに「伝統は革新の連続」なんです。伝統って、つまり、最先端の技術なんです。伝統を守るためにこそ、新しいことに挑戦していくんです。伝統を守るためにこそ、もっともっと生活に身近なものにしていくんです。僕ね、桂離宮にビー玉埋め込んだろかいな、なんて思ったりしてね。あ、そんなんしませんよ、どこでもいつでも、はちゃめちゃやってやる!ってわけではないんで、安心してください(笑)。

息子が二人いますが、ふたりとも左官をしています。僕がそうだったように、勝手に勉強しています。ほったらかしです。だから僕の持ってる道具も一切譲らない。二人で分けたらいいとか、そんなんしないで、要るんやったら自分で買ったら?ってね。僕の道具は全て竹中大工道具館に寄付しました。すべてね。さっぱりしたもんです。

僕の爺さんが若ぅに隠居したように、僕も早々に働くのやめたんです。45歳でメニエール病になってね、以後、遊ぶことにしたんです。

『我々はなんのために働くのか、左官はなんのために働くのか。』道具、技術、能力、素材。それらをつかって、多くの人々の生きる喜びや幸せにつながるもんを、具体的に実現していくんです。あ、こんなん欲しい!って思ってもらえるようなものを表現していくんです、そしてそういう能力をつけるんです。表現を形にすること、デザインの能力を高めていくことが、左官の可能性を広げると思っています。

左官の未来。未来は確実にあります。左官がいないと成立しない形の構造の家を左官がつくることによって。左官が構造をつくりだすんです。3次元曲面を大工さんではできないこと、多いでしょ。今、左官の世界はとても熱いんですよ。僕も自分が教えられることは、なんでも、なんぼでも、みんなに教えます。コンパネで練習する講習を全国でやっています。教えられへんなんて、センスの問題です。

中田)素晴らしいですね!それではそろそろ時間です。今日は久住さんの道具の一部、塵箒(ちりぼうき)を持ってきていただいています。みなさん、ぜひ間近でご覧になってください。

塵箒はね、左官はみんな棕櫚か麻で自分でつくるんです。ここに、その左官の美意識の差が出ます。「美しい」と感じる能力ですよね。大阪では、「親方選ぶときは、塵箒見て選べ」と言わるくらいです。はい。

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