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左官のしごと  久住 章 氏
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さて、僕は古い日本家屋にばかりに土を塗ってるのではなくて、コンクリート打ちっぱなしの現代建築でも仕事しています。梵寿綱(ぼんじゅこう、本名・田中俊郎)という建築家のつくった有名な「ドラード早稲田」っていう、とんでもなく派手な装飾の目立つ賃貸マンションがあるんですけど、ここでは、階段のレリーフを下絵なしのアドリブでつくったり、エレベーターの中にこだわったりしました。このマンションの施主は日本で最初にカフスボタンをつくった人です。「よそにないもん、つくって」ということでね。だから、壁にカフスボタンを埋め込んだりして。いろいろ自由に遊ばしてもらいました。

がらっと変わって、次は京都御所の築地塀です。泥を固めてつくる壁です。世界中にある土の建築と共通するものです。左官って、そもそも、地球的にはとてもメジャーな職業です。しかし、この筑地塀を見ていただいてもわかるように、世界中にある土壁のなかで、日本ほど繊細な土壁をつくる国はないんです。日本の左官職人ほど、優れた土壁をつくれる民族はいないんです。京都御所のこの壁は厚さが1m60cmもあります。人の背丈よりも厚い壁を支えている柱は、15cmもありません。厚さ1m60cmの全部が土なんです。

土の扱いが、世界レベルで見て、日本が秀でていることが最もよく分かるのが、聚楽土(じゅらくど)の壁です。格調の高い最高級の壁を水ごね仕上げでつくる。水と土と。美しいですよ、ほんまに。

桂離宮にも1982年から関わらせてもらっています。丸窓が6つ並んでいることで知られる「笑意軒」、白とブルーのあの市松模様で有名な「松琴亭」。月見台のある御殿以外はすべて僕が関わっている壁です。「月波楼」にある竈も僕がやっています。ブルーノ・タウトが称賛したように、桂離宮では非常にモダンなデザインを見ることができます。特に「松琴亭」では、ふすまと床の正面が市松模様でつながっていて、伝統なんて言葉から感じる古さがみじんもありません。

伊豆は修善寺にある人気の温泉旅館にも関わりました。木造の数寄屋造り建築です。ここの壁では、土に鉄粉を混ぜ込んで、時間を経ると自然に錆びが出てくるように仕上げました。錆を出して味わうのは、日本独特ですとも言えます。鉄くずを混ぜるのは、昔の職人が考えたことです。地域によって錆の模様・意匠が違っていて、大阪では「蝶の錆」、京都では「蛍の錆」と呼ばれます。詩的でしょ。

お風呂も左官仕事でつくりました。え?土のお風呂?水入れて大丈夫なん?って思われるかもしれませんが、全然大丈夫です。水が入るとね、土の中にあった砂がキラキラ輝いてね、赤とか青とか、ほんとにきれいなんですよ。

徳島の個人住宅のお風呂もやりました。ここではイタリアのガラスタイルを使って三次曲線にタイルを貼りました。洗面台は研ぎ出しで仕上げました。キラキラしていいんです。形、部屋の全てを僕がデザインして提案して構造図面を書いてやる仕事は楽しいです。

今はもうなくなってしまいましたけれど、INAXのショールームでも、随分遊ばせてもらいました。東京のワンルーム、一年の賃貸料が2億円の場所ですよ。そこで3年間、日本中から赤い土を集めてもっていったり、土でベッドをつくったり、泥団子を2千個積み上げて壁をつくったり、いろいろさしてもらいました。土のベッドは、いわゆる版築です。版築は今でこそよく使うようになったけど、僕がここでやって見せてから、みんながやるようになったんやないかと自負しています。また、泥団子の壁は、INAXのショールームがなくなるとき、壊すのはもったいない! 壊すんやったらほしい! と言う人があらわれて、一つ一つ丁寧に泥団子をはがして持って帰ってカフェに使われました。


さて、有名な建築家と一緒に仕事をすることもあります。相手が有名な人でも、僕は遠慮せんとどんどん提案して、意見を言います。山口県下関市、豊浦という港町の安養寺に、隈研吾が設計した建物があります。国指定重要文化財の大仏を収納するための建物です。僕は、土のブロックをつくって積み上げてはどうですか、と提案しました。ブロックと言っても、一つが60キロもあるものです。建築の担当者は分からんから、図面を描いてブロックを20種類もつくりました。建物の角にあたるブロックは250キロもの重いものになりました。釣り上げながらブロックを積んでいってね。なかなか他にない土の建築になりましたね。

兵庫県加西市では犬のプールもやりました。予約制のプールでね、こんな感じで結構犬が来て泳いでいるんです。なかなかオシャレでしょ。ガラスを割って混ぜたものを塗って洗い出しています。玄関のアプローチにも、こんな水場をつくりました。犬の足を洗うところですよ、人間が使うのよりええでしょ。なんでも聞くところによると、犬のエサ代が一日に2万円らしいですよ。

中田)すごいですねえ、どこにあるんですか?ワンちゃんうれしいでしょうね。

そら、犬もうれしいですよ。犬には、なんや、もう訳分からんからね(笑)。この犬のプールは、加西インターチェンジの近くにあります。個人営業の施設です。

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