セッション
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茶の湯の心 谷 晃 氏(野村美術館館長)
4. 「禅」とは、人間としての生きざまを考えていくもの
かつて京大に谷川徹三という哲学者がいました。イギリスの哲学者バートランド・ラッセルを日本に紹介したことでも有名な先生で、西洋哲学の視点から茶の湯を分析し、「茶の美学」という本を出しています。彼は茶の湯の要素として「宗教性」、「儀式性」、「社交性」、「芸術性」の4つを挙げています。中でも、芸術性が最も見られるのは点前である、と言っています。自分の体を表現手段として使うパフォーマンスアートであると。 もしそれがアートであるなら、毎日必死でレッスンしなければなりませんね。アートとは大変厳しいものだからです。あるピアニストは、「一日レッスンを休めば自分が分かる、二日休めば師匠に分かる、3日休めば聴衆が気づく」と言いました。そこまで点前の稽古に励んでいる人がいるでしょうか。点前はそれほどまでして追及しなければ、芸術とはなりえないのです。 人をあるべき境涯に導いていくものが茶の湯にはあって、茶の湯の根本には禅がある。そして、それが侘び数寄につながっている。人のあるべき姿に導いていくという点では、ある意味で宗教ととても似ているかもしれません。華厳という言葉もあります。それを前面に出しすぎると、茶の湯が窮屈になるかもしれません。しかし、茶の湯の根本にある禅とは、人間としての生きざまを考えていくものであると言っていいと思うのです。 → 次のページ「5. 大きく変わってきた茶の湯、これからも変わっていく茶の湯」 |