セッション
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競争しない競争戦略 渡辺 良機 氏
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しぶしぶ会社に入ったもののやはりなんとか断れないかと悩んでいるとき、2週間のヨーロッパ視察ミッションに誘われました。断り切れずに参加したこの視察ミッションで私は大きな気付きを2つ得ました。 1つ目はドイツの工場を見学したとき。いかにもお金持ちそうな手作りバネ工場の社長さんから、お客様に適正な価格で買っていただく大切さを学びました。当時の東海バネは高い値段を提示できず、しかもお客様との交渉過程でさらに値下げに応じていました。機械は減価償却と言って年々価値が下がっていきますが、人間の価値は年々上がっていきます。その人間に分け前を与えていくためにはこれ以上下げられないラインがある。適正価格で買っていただく大切さに気付きました。 もう1つはフランスの工場で。人がやりたがらない仕事だから高い給料で人材を雇っているという話。事務仕事などやりたい人の多い仕事は給料が高く、だれもやりたがらない仕事の給料は安くて当たり前と思っていましたが、やりたくない仕事に真面目に取り組んでいる人に見合うだけの報酬を出して正当に評価しないようでは「手作りバネ」の看板を下ろさないといけないのではないか。見合う給料を出し、もっと良いバネを作りたいと思ってもらう方がよいのではないかと気づかされました。 私は会社に帰ってからやるべきことを見つけました。教科書には「製造業はコストを極限まで削減しないと生き残れない」と書いてあります。しかし、できもしないのに、どうしても早く、安くしようとするのはやめようと思いました。お客さんの言いなりにならず、言い値で買っていただけるようにしていこうと、帰国して視察の成果を報告しました。 しかし、コンサルに相談しても、省力化、合理化、コストダウンの話ばかり。「言い値や適正価格で買ってもらえる仕組みはどうやったら作れるのか」と誰に尋ねても最初に説教ありきでした。最後にあるコンピュータベンダーの社長に話を聞いてもらったところ、ある酒の小売店を紹介されました。その店では、顧客情報リストが完備され、それぞれの顧客に売るものの情報がデータベース化されていました。酒ではなくシステムを買ってもらっているのだと社長は言いました。 1回でもいただいた注文は、生産データ(形式知+暗黙知)を全部ストックし、積み上げていく。これで究極のシステムが出来上がります。おかげで、良いものを作っていたのにいつの間にか店を閉めはったわと言われずに済んでいます。単品でお困りの方のお役に立てるバネ作りを続けることができています。 → 次のページ
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