セッション
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ミシュラン社とちょっとだけフランスの話 森田 哲史 氏
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さて、ちょっと話題をかえまして、ここからは、日本とフランスの文化の違いについてお話ししようかと思います。中田さんから事前にそんなリクエストも受けておりますのでね、少しはそんなお話も。いや、比較文化論みたいに大層なことが言えるとは思いませんが、あしかけ25年ほどフランスに住んでいましたから、その中で私の体験の中から私なりに気がついたことをお話ししたいと思います。 まず一つは、自分を確立すること、他人を認めることについてです。
この考え方は私たち日本人とかなり異なっていると思います。日本では家族を顧みずに残業しますよね。家族と一緒の食事ができなくてもしかたがないと考える。でも、この生き方・考え方は、フランス人には、自分の人生に不真面目な姿勢に受け止められます。幸せになる義務を放棄している、不誠実であると。 フランス人にとって、L’artde (芸術)とvivire(人生)は分かちがたいものとして一体なのです。日常生活の中にあるちょっとした演出の美しさを本気で大切にします。それが、自分を幸せにすることにつながることを知っているからです。だから、フランス人はテーブルクロスをひとつ買うのにも3日くらい悩む。見ていて滑稽なくらい本当に真剣に悩みます。太陽の光の下ではどのように見えるか、自分が普段使っているカトラリーに合わせてどうか、納得しないと購入しません。僕は最初、そんなフランス人のやり方が「ケチ」だからだと思っていましたが、そうじゃない。徹底して吟味して好きなものを選ぶ「努力」なんですね。暮らしと芸術を自分の好きなもので満たして豊かにしていく努力こそが自身の幸せにつながる。そうして幸せになる義務を果たすのです。 → 次のページ
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