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ミシュラン社とちょっとだけフランスの話  森田 哲史 氏
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最後に、おこがましくも但馬の観光についての提言を、ということですが、それにあたって、フランスではごく有名な、ビジネス・スクールの「ラグジュアリー・マーケティングの12か条」をまずご紹介したいと思います。
日本の観光産業では「お客様は神様です」というのが教育の基礎にありますよね。フランスでは違います。「ラグジュアリーのイメージをつくること」が大切だと考えます。ここで言う「ラグジュアリー」とは、単に高級でプレミアムだということではありません。「ブランドを確立すること」を意味します。

1)商品のポジショニングを考慮せず、ブランドのアイデンティティのみを考える。
2)商品としてそれなりの欠陥がある。
3)消費者ニーズにあわせることばかりに集中しない。
4)商品に興味を示さない人たちは最初から無視する。(…以下12項目続く)

最初の項目(商品のポジショニングを考慮しないこと)は、非常に大切なことですが、なかなかできないことです。しかし、城崎温泉はこの「ラグジュアリー」理論に見事当てはまっているのです。城崎温泉は、1925年の北但大震災で壊滅しましたが、その後、どこかほかの温泉地と比べて自らの価値を決めたのではなく、あくまで、もとあった城崎の温泉街の景観を再現されることに徹してこられた。最初にその決断をされそのことが今もずっと継続されていることは、本当に素晴らしいことだと思います。
また、二つ目の項目(決定的な欠点がある)ことについても、城崎温泉は見事に当てはまっていますよねえ、遠い!寒い!(笑い)、けれども、そのことが独自の魅力につながっている、城崎にしかない魅力となっている。
すばらしいと思います。私どもフランス人スタッフも心から感動して「ぜひフランス人に城崎温泉を伝えたい」と、ミシュランガイドに掲載さえてもらうことになったのです。その際には、地元の多くのみなさまにお世話になりました。

豊岡には本当に素晴らしいところがたくさんある、そのうえで、僭越ながら、フランスの観光地を見てきた者として私が思ったことをちょっとアドバイスするとしたら、まず、①託児施設がないこと、があげられるかと思います。例えば、永楽館で素晴らしい演目がかかっていても、小さな子どもさんのいる夫婦は見ることができない。永楽館での観劇をあきらめるしかない。どうか2人がゆっくり見ることができるように、託児施設ができればいいなと思います。

次に思うのは、②外国人向けのガイドを置くこと、です。見知らぬ土地をより深くするためには、やっぱり観光ガイドは必要なんですよね。外国では日本よりガイドはもっともっと一般的な存在として認知されています。最近では日本でも、例えば熊野古道で外国人に向けたガイドの取り組みがなされています。ここにはカナダ人ガイド、ブラッド・トウルさん(カナダ生まれ。平成11年に英語指導助手として来日し、その後、官民共同の観光プロモーション団体「田辺市熊野ツーリズムビューロー」設立当初からスタッフとしてがんばっておられる)がいて、外国人の受け入れ体制が整ってきている。単に「外国語が話せる人がいる」というだけではダメなのですね。ちなみに、熊野古道はミシュランの三つ星を獲得しています。

また、③コロニー・ドゥ・バカンスの取り組みも参考になるかと思います。コロニー・ドゥ・バカンスというのは、パリ市などの自治体が主催して行う子ども向けの夏期学校です。子供たちを2週間から3週間、海や山に連れて行ってくれて、美味しい空気の中でスポーツや勉強ができる、親にとってはありがたい制度です。
ここで子どもたちの指導を行うのは、将来、学校の先生になりたいと考えている学生たちなんです。学生たちは将来の目標にむかってアルバイトしながら子どもたちと一緒に学ぶことができる。ロアール川の古城などを歩いていると、どこからともなく音楽が聞こえてきたりしてね。とてもいいものです。

豊岡市では、アーティスト・イン・レジデンスの取り組みが始まったばかりなのですよね。ヴィラ九条山(1992年に創設された京都にあるアーティスト・イン・レジデンス、20前後の分野にまたがる250人以上の滞在者を迎え入れ、フランスと日本の文化的対話を深めることに寄与している)との交流もはじまっていると聞いています、とても良いことだと思います。

最後に、④観光地をどう演出するか、についても、今までにないような革新的な取り組みを行っていくことが楽しいかもしれません。例えば、電気を全部消して、線香花火を楽しむとかね。海外の人にとって、線香花火は初めての体験でしょうからね。日本独特のあの線香花火の感じ、いいですよねえ。
あるいは、稲刈り体験とおにぎりづくりなんてのも最高でしょうね。観光体験メニューとしてきちんと確立させるのです。昨年でしたか、神鍋高原で稲刈り&おにぎり体験をさせてもらったカナダ人は、それはそれは楽しんで喜んでいました。

というようなところで、最後はちょっととりとめもない提案になってしまいましたが、私の話はこれにて終わりたいと思います。みなさま、ご清聴、どうもありがとうございました。

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