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セッション
の~らから見えてくるもの  木村 尚子 氏
1.主催者あいさつ
2.今の活動に至るまで
3.「NPO法人ダーナ」から「の~ら」へ
4.「の~ら」から見えてきたもの(社会のこと)
5.「の~ら」から見えてきたもの(自分たちにできる小さなこと)
6.「の~ら」から見えてきたもの(みんな「人」で困っている)
3.  「NPO法人ダーナ」から「の~ら」へ

「の~ら」は NPO 法人ダーナの一部門です。ダーナとは、サンスクリット語で施しを意味します。設立は 2002 年です。認知症高齢者のグループホームから始まって、最近ではシカバレーという複合的な高齢者施設も運営しています。目の前で困っている人がいたら、できる限りのことをしてあげよう。仲間と力を合わせることで、より大きな力を地域にもたらしていこうといった理念で活動している団体です。

介護施設を運営している法人ではありましたが、理事仲間がもともと出会ったのが障害者支援の場だったこともあって、「の~ら」をつくることはすんなり理解してもらえました。「君の夢は僕の夢」を合言葉に、大きな後押しをしていただきました。

「の~ら」は、発達障害(※ 1)や対人関係の不調などの理由で、社会に参加することができていない人たちを支援する場です。いろんな経験をしながら、ゆっくりと個々人が自分の課題を克服して行ける場を提供しています。

「発達障害」ではなく「生きにくさを抱える若者」のためのと銘打ったのは、大人になってから発達障害と診断された人など、自分が障害者であることをなかなか受け入れられない人も気軽に来れる場にしたかったからです。入り口を極めてゆるくし、来たいときに誰でも来られるように。活動の中心は「農業」です。

私の息子は軽い障害があって高校から特別支援学校に通っていました。私が死んだらこの子はどうやって生きていくのかなあと考えた、とりあえずの答えが農業でした。とりあえず、食べるものが作れたら安心だろうなあ。でも、一人で農業やるのは難しいから仲間や指導者が要るなあという単純な発想で今の形になりました。

現在、の~らは、地域活動支援センターと、障害者グループホームの二つの機能を整えています。支援センターの登録(というほどきっちりしたことはしていませんが)者は現在 25 人くらいいます。毎日 10 人前後の人が来ていますが、その日にならないといったい何人来るのかわからないような緩い場です。グループホームの方は受給者証が必要です。

※ 1:発達障害
比較的低年齢時の発達の過程で現れ始める、行動やコミュニケーション、社会適応の問題を主とする障害のこと。

の~らを作った当初、特別支援学校を卒業する人の進路は、いわゆる一般就労(企業などへの就職)か、福祉的就労(いわゆる作業所と言われる場所)かの二つしかないように思われました。うちの息子の場合、出来ることもいろいろあるが一般就労は難しい。かといって福祉的就労では物足りなくて成長が見込めないのではないかという思いがありました(今では、いろいろな取り組みをする作業所が増えていて、選択肢も増えています)。の~らでは、この二つの道の中間に「第三」の道をつくろうと考えたのです。

実は、普通の高校に通っている人の中にも発達障害を持っている人はいます。この中には学力が高くて大学に行く人や、卒業して就職できる人も多いのですが、どこかで挫折してひきこもってしまう人がいてもおかしくないなとぼんやり想像していました。しかし、いざ、の~らを立ち上げてみると、そういう人の多さにびっくり。今ではほとんどが、ある程度のひきこもり期間を経験している人たちです。

の~らの利用者には、学力が高くて大学に入ったものの、学生生活の途中で挫折してひきこもったり、就職がうまくいかなくてそのままひきこもっていた人もいれば、逆に普通高校を出ているものの学力や自己効力感が低くて就労に結びつかなかった人もいます。たいていは、コミュニケーションが苦手で、面接に受かるというのがなかなか難しい。極めて真面目な人が多く、「やらなければならない」のにできない、だから自分はダメなんだと思っていたりします。そのうちに周囲に勧められて検査を受け、発達障害や知的障害と診断されたりします。しかし、障害基礎年金を受給できない人が多く、親御さんがいなくなったらどうやって生きていくのだろうと思えるケースがほとんどです。

発達障害が悪いのかというと、実はそうではない。発達障害だけだと、ちょっと不器用でも、ほんわかやさしい人が多いです。でも、親にとっては育てにくく、先生にとっては指導しにくい。誤解されやすくて友人関係も難しい…。そんな環境の中で自尊心が低下したり認知が歪んだりしていって、問題行動やパニック、ひきこもりといった二次的障害(※ 2)が出てしまう。逆に、失敗させないように周囲が先回りしすぎて自己像が肥大したりもする。これが「生きにくさ」の中身なのではないかと思っています。

逆に、障害がなくても、同じような状況で育てば、同じように生きにくい状態になってしまうような気がするので、もともと発達障害があるかどうかではなく、今、本人が困っているなら同じように支援してあげたらいいかなと思っています。大事なのは、本人が好きでそうなっているわけではないということと、「本人の性格」で片付けていては何も解決しないということです。

※ 2:二次的障害
子どもが抱えている困難さを周囲が理解して対応しきれないことによって、本来抱えている困難さとは別の二次的な情緒や行動の問題が出てしまうもののこと。心理的な要因から起こるもの、身体的にも影響を及ぼすものなど、さまざまなケースがある。

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