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パスワードを忘れた方
セッション
人と人、人とモノを繋げる  甲斐 みのり 氏(文筆家)
1.私にとってのお菓子
2.私が愛する可愛いお菓子
3.お菓子の背景にある物語
4.お菓子を通して知る「美しき日本」
5.現代らしいお菓子の楽しみ方
2.  私が愛する可愛いお菓子

私は味の専門家ではありません。そもそも、お菓子への愛は、お菓子の箱や包装紙がほしい!という子供のころの気持ちから始まっているところが大きいことも、すでにお話ししたとおりです。もちろん、わぁ!可愛い!の後には、美味しい!という感動もありますけれど、お菓子の「味」そのものを基準にして語ったりご紹介したりすることは基本的にありません。

たとえば、福島の「ゼリーのイエ」。これは一人のおかあさんが、愛情をこめて丁寧につくっておられるだけのものでした。最初から売るための「商品」としてつくられてきたものではなかったのです。家族のためにつくっていたゼリーを、ちょっとおすそわけでご近所の方にお分けしたらとても喜ばれた。評判が評判を呼んで、「私もつくってほしい。どこで手に入るのか」という声が増えていった。ただでつくってもらうわけにはいかない、せめて材料費だけでもと、お金のやりとりがはじまった。急にほしいと言われても対応できないから事前に注文を聞いてつくるようになった、自宅の前に小さなプレハブを建ててつくるようになった・・・、というように、お母さんがたった一人で愛情をこめて身近な人のためにつくっていたゼリーが、どんどん人気になっていくんですね。お菓子の中心にあるお母さんの愛、私はこれにとても感動しました。

このゼリーのイエのゼリーを週刊文春の「おいしい!私の 取り寄せ便」というコーナーで私のおすすめとして紹介させてもらったのをきっかけに、全国メディアにとりあげられるようになっていったそうです。どんなにがんばっても、お母さんが一日につくれるゼリーの数は限られた数で、予約制でその日の分をネットに出しても即完売。それくらい、ギュッと心をつかむゼリーなんですね。お母さんの愛から始まった可愛らしいゼリー、今や、なかなか簡単に口にすることができない幻の人気ゼリーになっています。

もう一つ、例を出してお話します。和歌山の「デラックスケーキ」です。ちょっと変わったカステラの生地にジャムをサンドしてホワイトチョコで包んであるお菓子です。地元では知る人ぞ知る銘菓でしたが、私は一目見て、これは可愛い!と思ったんです。包装紙も見た目も本当に可愛かった。食べても美味しい、大好きなお菓子になったのです。
だからそれを、阪神百貨店のバレンタイン企画(日本中から私が可愛いと思うお菓子を集めて売る企画)プロデュースの際に、デラックスケーキも選びました。そうしたら、デラックスケーキがものすごく評判で、一度食べたらリピートして買いにこられる方までいらっしゃって。入荷したら入荷しただけすぐに完売してしまうんです。百貨店の方もこんなに数が出るとはと驚いていました。

つまり、私が愛するお菓子は、まず見た目の可愛らしさがあることなんです。デザインの可愛さ、これはとても大切です。次に、そのお菓子の背景にあるストーリーに惹かれます。ただお菓子を食べることだけ、お菓子の味だけを愛しているのではないんです。お菓子をとりまく様々のことが気になりますし、それらを全て含めて私はお菓子を心の底から愛するのですね。

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