TAJIMA
CONNECTION
パスワードを忘れた方
セッション
日独外交通訳の現場から  ベアーテ・フォン・デア・オステン 氏
ページ : 1234567
4

ベアーテ)良い通訳をするには何が必要でしょうか。まずは文化を知ることです。言われたことをそのまま訳したら失礼になる場合もあるので、どう言えば失礼にならないか、言葉を選ぶ必要があります。文化と言葉は繋がっています。例えば、会社に行くとき、出かけるのがちょっと遅れて走って行ったら、バスの運転手さんが止めてくれました。こんなとき、ドイツ人なら「ありがとう」ですが、日本人なら「すみません」ですね。相手に迷惑をかけたから謝るという感覚ですが、ドイツ人なら自己中心的に考えますので、自分に良いことをしてもらったから「ありがとう」なのです。違う文化圏であることを踏まえて、そのコンテキストに一番適切な言葉を選ぶ必要があるのです。

外交の場合は、インプットも暗号的です。はっきりとしたことを言わない場合も多いので、本当は何を言いたいのか前もって知っておかないといけません。ですので、外交の場合には、首相のための台本が作られるのですが、通訳もがそれを見ることができます。台本を前もって確認できるとはいえ、同じ母国語であっても人によってどんな風に理解しているかわかりませんし、自分とは理解の仕方が違うかもしれません。通訳は、本人が何を考え、何を言いたいのかを知って、彼女の声になってあげる必要があるので、普段からたくさんのスピーチを聞いたり読んだりして本人の研究をしています。不勉強や不十分な準備のために本当に伝えたいことを伝えられなければ、それは無責任というものです。

通訳の責任は重大です。とんでもない訳をしたら、とんでもないことになる可能性があります。かつて、ニクソン大統領と佐藤首相の日米交渉で、適切な通訳ができなかったことがニクソンショックを招いたと言われています。「善処します」という日本語が「約束します」というニュアンスになって訳されたため、その後、約束どおりにいかなかったとアメリカの態度が冷たくなったのです。通訳は、一瞬で正しい訳が出ないとだめですし、「どういうつもり?」と聞き返すこともできません。後から話の流れの中で間違いだったと気づくこともあります。そんなときは、プライドを捨てて、その場で素直に認めることが必要です。

© TAJIMA CONNECTION