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パスワードを忘れた方
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日独外交通訳の現場から  ベアーテ・フォン・デア・オステン 氏
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ベアーテ)良い通訳は、文化的な適切さ、単語レベルでの適切さとともに、スタイルや雰囲気作りも上手です。先ほどの南ドイツ新聞の特集には「通訳は透明人間である」と書かれていました。良い通訳だと、だんだん本人同士が話しているように錯覚させられることがあります。通訳も、本人と同じ雰囲気を醸し出すんですね。いくら単語レベルで適切であっても、スタイルが適切でなければ伝わりません。メッセージが心まで届いて初めてコミュニケーションがうまくいっていると言えるのです。場面に応じて話し方を変えます。立ち方や声のトーン、話す速度も工夫しますし、時には話し手と一緒に感情移入することもあります。うまくいくと、2人が直接話しているような感覚にとらわれて、幸せを感じます。

通訳は透明人間なので、忘れられることもあります。外交場面での席次や車列の手配でもそんなことがたまに起こります。通訳は位が低いので、慣れていない人が手配すると後ろの方に配置されることがあるのですが、それではトップが話をできません。事前に会場の音声状況を下見したり相談して適切な場所に配置されないと、母国語はなんとか聞き取れても、外国語は音声状況が悪いとまったく聞き取れず、困ったことになります。

通訳は、できるだけ忠実に、何も足さず、何も省かずに訳すのが基本ですが、文化的背景を最小限加えたり、言い換えることもときには必要です。スピーカーが間違った場合は、明らかな間違いは黙って直しますが、意図的に対立的ないし失礼なことを言ったときはそのまま訳します。

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