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歌舞伎の魅力  水口 一夫 氏
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それで、歌舞伎の道をあきらめて、親の勧めるままに大学に行って、大学を卒業して、会社に入りました。京都に住んで、大阪の会社に通う毎日でした。ある日、通勤の京阪電車に乗って、窓に写るみんなの顔を眺めていた。そしたら、なんとも、みんな疲れた顔をしているんです。その中に疲れた顔をした自分もいる。僕は、会社のある天満駅に着くと、そこで下りずに、そのまま、京阪電車に乗って、京都に引き返して、部屋に帰りました。

その頃、僕はすでに結婚していました。僕は 26 歳で 19 歳の相手と1回目の結婚したんです(結婚は3度もしてしまいました 笑)。仕事に行ったはずの旦那が帰ってきたら、嫁がびっくりしますわね。「あれ、どうしたん?」「うん、もう会社には行かへんことにした、会社で働くのがいやになったんや。」「そんなんいうて、これから、どうするの?」それで僕はどうしたかというと、歌舞伎を見に行ったんです。毎日毎日、会社に行かずに、歌舞伎を見に行った。それで、楽屋に入り浸って、役者とあれこれ話をした。もともと、小さいころから歌舞伎を見て育っていますからね、知り合いは多かったんですが、馴染みの役者さんや関係者がどんどん増えていきました。

そうするうちに、「あんた、暇なんか、それやったら、今度こんなんするから、手伝って」「ちょっとシナリオ書いてくれへんか」と、いろいろ頼まれるようになった。ほなやろか、ってことで、頼まれるままに、僕は歌舞伎の周辺で動きはじめました。

そんな僕を見て、嫁はどうしたか。働いてくれました。ええ嫁ですわ。それでも、ある日家に帰ったら電気もついてなくて部屋がまっ黒。部屋の隅を見ると、嫁が座ってシクシク泣いている。「あれ、どないしたんや、なんで電気つけへんのや」「電気止められた」「あほやな、そんなことで泣かんでええ、電気止められたんやったら、ろうそく点けたらええだけやないか」でも、そんな暮らしが嫌になったんでしょうね。若かったですから。ある日家を出て行ってしまいました。

ちなみに、2回目の結婚は、関東出身のある女優としました。女優ですからね、芸に関して理解がある。でも、なまじ理解があるから、互いに意見を言い合うとぶつかるんですよ。例えば、僕が本を書こうと思って、机の前でぼおーーっとしている、テレビをつけたままぼおーっと見ている。傍目には、ただ、ぼけーっとしているように見えるんですが、僕は考えているんですよね。そうやってずっと何か考えている。そんな僕のことは、非常に理解して黙って放っておいてくれていた。けれど、書いた僕の本の内容に口を出すんですよ。「あんた、こんなセリフダメよ、こんなセリフ言わないわよ」とかね、いろいろ言いよるんですよ。そない言われたら、ムカーーっとしますわね。

また、彼女が稽古を終えて「疲れたー」と言って帰って来る。そして、「あんた、私の演技ちょっと見てくれない?」っていうから、見てあげる。僕は「そんなん全然あかん、へたくそやなあ、そんなん全然感情が入ってへん、あかんあかん」と正直に指摘する。そうすると、嫁はムカーーーっとしよるんですよね。それで別れてしまいました。というわけで、この結婚生活は半年も持ちませんでした(笑)。

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