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歌舞伎の魅力  水口 一夫 氏
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女性が出られないとなると、一座の中で一番小柄で線の細い人が女性役をやるようになる、女性役は、髪を剃った後の青い頭皮を隠すため、帽子をつけるようになります。そして、どうしたら女に見えるのか、女性のしぐさを真似て研究する。男性が女形のしぐさを獲得する苦労の歴史そのものが、歌舞伎の大きな魅力とも言えます。

例えば、人を指す時のしぐさね、どうしたら女性らしく見えると思われますか。まあるく人を指すんですよ、こんなふうにね、みなさんも試してみてくださいね。また、着物の袂の扱いや袖の扱いね。これ、知っていると今でも使えるんですよ。例えば、浴衣を来て電車に乗って、つり革を握るとき、なんにも意識していないと、袖はずり落ちて、二の腕がはだけで丸見えになります。なんとなく見苦しいですよね。けれど、ちょっと腕を曲げて、袖がずってこないように意識するだけで、着物の着こなしが非常に美しく見え、なんとも女性らしいしぐさとなるんです。全然違うでしょ。

しぐさは、性別だけでなく、年齢によっても大きく異なります。自分を指さすしぐさ。幼い子どもなら、手の甲を相手に向けて人差し指をぴんと伸ばして自分の顔の下から自分を指します。中年の女性なら、腕をちょっとあげるようにして、横からまあるくゆっくり自分を指します。年取ったおばあさんなら、指はもうまっすぐに伸びません、指はまがっていて、自分を指す手の位置もかなり下の方です。歌舞伎のしぐさ、みなさんもぜひ、よく見ていただきたいなと思いますね、なるほどなあって、面白いですから。

僕は、ひとつの公演をだいたい3回見ます。まず、絶対に初日は見る。そして気になったものはまた見る。そして、名残りを惜しんで、千秋楽に見納めする。3回見るとね、よぉ分かりますよ。初日はとにかく、おもしろいんです。「とちる」から。失敗するんですね、いろんな「とちり」があります。カツラが飛んじゃったりね、客席は大笑いです。

こんな「とちり」もありました。歌舞伎役者さんは、普段の洋服で劇場にやってきて、楽屋で時代物の着物に着替えて、舞台に出て、その衣装を脱いで、着てきた洋服に着替えて帰る。けれど、現代劇の歌舞伎では、衣装も現代風の洋服です。ある役者さんは、楽屋で着替えて、舞台衣装の現代の服を来て、そのまま帰っちゃった。さあ開演まもなく、ってときになってはじめて、役者さんがいないことに気がつく。「あれ?どこ行ったんや?」「あ、さっき帰っていかれましたよ」「なにーっ!? 帰った!?」ってね。さすがにその役者さんも家に帰る途中で気がついて、戻ってこられましたけれど、彼が戻ってくるまでの間、開演時間を遅らせるアナウンスをして、お客さんに謝ったりしてね。こういうとき、お客さんには蕎麦を出すんです、「とちり蕎麦」と言います。

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