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歌舞伎の魅力  水口 一夫 氏
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歌舞伎の「音」の次は「台詞」についても、少しお話しなくちゃなりませんね。歌舞伎の台詞は「音楽」なんです。「歌舞伎」って、よくできた漢字だなあと思いますよ、歌と舞と伎ですから。「なにがなにして、なんとやら」という台詞も、「♪なぁにぃが~なにぃしぃて~、なぁんとやらぁ~~♪」というようにね、唄うんです。歌舞伎の台詞はすべて七五調です。七五のリズムです。人がふつう話すのは8拍のリズムだと言われています。2234、5678、というふうに。ですから、七五調で歌おうとすると、ちょっと余るんです。7 + 5 = 12、8 + 12 + 8 = 28。すると4拍余りますね。この余りが大事なんです。例えば、「なみだ」なら「な・みぃ~・だぁ~」というふうに。

浄瑠璃や歌舞伎で、三味線の旋律に合わせて調子よく台詞を語り唄うことを「乗地(のりじ)」と言いますが、乗地って、江戸時代のラップなんですよね。例えば、「なぁ~にぃさ~、なぁ~にぃさ~~」というように、リズムに合わせてね。

さて、そろそろまとめのお話をしなくちゃならない時間になってきましたけれど、ほかにもいろいろお話したいことはたくさんあるんですが...。ええと、そうだ、これだけは最後に言っておかなくちゃ。演劇は総合芸術だとよく言われます。文学、音楽、舞台美術、舞踊・・・。そして一番大切なのは「脚本」だとされる。けれど、歌舞伎で最も大事なのは、脚本ではありません。なんだと思われますか?はい、「役者」なんです。役者が一番大事です。2番目に大事なのは「お客さん」です。歌舞伎は、まず役者がいて、お客さんが参加して、一体となって一緒につくるものなんです。

「よっ!なりこやまっ!」「まつしまや!」って客席から絶妙のタイミングで、ばちっと声がかかると、役者のテンションも上がるんですよね。また、花道を通る役者は、観客に非常に近い。永楽館のように小さな芝居小屋では、その魅力がいかんなく発揮されます。最近、歌舞伎専用ではない大きな劇場で歌舞伎の公演をすることもあるんですが、昔の尺と差がありすぎてね、さっと退場したい場面で、そうできない、「あ~~~」って長く声を出しながら去っていく、なんてこともあったりしてね。とにかく、みなさん、ぜひ劇場に足を運んでいただいて、役者と一緒に歌舞伎をつくってほしいなあと、思います。

歌舞伎は日本人がつくったもんです。分かりにくいことなんてありません。簡単です。なんにも難しいことない。ただ、少し、知識を増やしてもらうと、もっと魅力が分かるようになります。どうか、みなさん、これからも歌舞伎を支えてやってください。心からそうお願いして、私のお話はこれで終わりにしたいと思います。

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