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本の未来について  幅 允孝 氏
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中田)さて、幅さん、残り時間も少なくなってきましたので、幅さんのお仕事の核心にせまる部分についてお聞きしたいのですが。

幅)はい、僕の仕事を一言で言えば、「本棚の編集」です。まず、「セグメントの再編集」をします。一般的な書店や図書館では、ある分類にそって本が並べられています。その分類をやめて、例えば「インド」というコーナーで本を紹介するのであれば、アンリ・カルティエ=ブレッソンの写真集『IN INDIA』、アントニオ・タブッキの小説『インド夜想曲』、妹尾河童の旅行記『河童が覗いたインド』などを選びます。これらは、従来の分類によると、写真集のコーナー、海外文学のイタリアのコーナー(あるいは白水社の文庫本コーナー)、日本文学の旅行記のコーナー、というふうに別々の棚におさめられてしまって、一緒に並べられることのなかった本たちなんです。

一冊の本は一冊の本である。けれど、それが何冊か連なることによって、本たちはとても雄弁に語り始める。ひとつのメッセージとなる。あるひとつの雰囲気を醸すようになる。僕はこれを「本棚の雄弁さ」と読んでいます。友達のおうちにいって、本棚を見るとその人のキャラクターが伝わってきますよね、また、会社の社長室の本棚に、税金対策の本ばかりが並んでいると大丈夫かなーこの会社、なんて思ったりもしますよね。本は数冊集まることで、非常に強いメッセージを発しはじめるのです。

「本棚の編集」の仕事では、本を選ぶだけでなく、本そのものを置く環境も編集します。たとえば、羽田空港では、限りなく本のタイトルを絞って、紹介しました。滞留時間が20分と短い場所で、本を手に取ってもらうために、「東北に持っていくならこれ!」というふうに、ベスト3形式で提示したわけです。この3冊をだいたい2週間に一度入れ替えます。話題になっているニュースなどには、敏感に反応して本を選びます。このときは、岩手で強い突風が吹いたことがニュースになっていましたので、『風の又三郎』を選びました。飛行機から東北の地に降り立った時に吹いてくる風を、宮沢賢治の文体と共に、ふうわり感じてほしいな、そうであればいいなと思って。

新しくても古くても本というのは必ず誰かに必要とされる可能性もみんな持っているんです。けれど大部分はほこりをかぶったまま眠っているんです。そのほこりを払って、丁寧に差し出す、それだけでいいんです。選んだものをどう差し出すのか、それこそがとても大切なことなんです。セレクトよりエディットが大切なんです。世界中のものを見渡してそこから何かを選ぶセレクトの行為より、世界中のものを見渡して選んだものを何とどのように並べるか、というエディットの力が問われるのです。

また、選んだものの差し出し方、差し出す時の言葉じりが、とても大切です、細心の神経をとがらせて、言葉を選ばなくちゃならない。その言葉一つで、受け手の心への響き方は、大きく違ってくるからです。

例えば、新宿伊勢丹B2ビューティアポセカリーにあるオーガニックのワインを置く売り場では、「きれいな酔い方」と見出しをつけて、本をセレクトして置きました。きれいに酔う、という言葉と、オーガニックのワインを好む人の感性が響きあうのですよね。

先ほどから何度か言っていますが、この本がいいから読め!というのではなくて、気がついたら本を読んでいた、というのがいいと思うんですよ。この写真は、東京ミッドタウンでのあるイベントの様子です。よく手入れされた芝生の上で、5月初旬の爽やかな風に吹かれながら、芝生の匂いを感じてもらいながら、本を手にとってもらおうという「PARK LIBRARY」の企画です。バスケットの中に3冊の本とラグマットを入れて無料で貸し出します。バスケットには、中に入っている本を示唆するキーワードが書かれていて、それを見て選ぶことができるんです。「木や森や植物」「5月のさわやかな恋愛」「芝生で飲むワイン」「動物たち」などといった言葉を書いた紙が貼ってあります。

なにせ、マットが無料ですから、それだけを目的に借りる方もおられる。ある男性を観察していると、まずマットを広げて、その四隅に本を重石のように置いて、奥さんや子どもさんを待っているのか、ごろりと横になっている。そのうち、手持ち無沙汰になって、なんとなくパラパラと本をめくりはじめる。ちょっとお話を聞いてみると、その方は、なんと4年ぶりに本をめくったというのです。身体が心地いいと、人は未知を恐れない。最終的には「気付いたら読んでいた」という環境をつくることが一番よいと思っています。

中田)まだまだお話をお聞きしたい!でもすでに予定の時間を超過ぎみです。最後に、今日はこの会場に、地元の本屋さんも参加されています。幅さん、一言お願いできますか?

幅)「主語」がたっていない本屋さんは、これからつぶれていきますよ。ダメと言われても、その覚悟を持ちながら、堂々と自分がいいと思ったものを差し出していく。例えば、本を誰かにプレゼントするのってなかなか難しいことかもしれません。その本を否定されたら人格まで拒まれた気になってしまう方も多い。けれど「こんなの好きじゃない」って言われたら、左手にもう一冊隠し持っていた本を、すぐにさっと出して、相手に笑顔で手渡したらいいんですよ。もっと気楽に愉しんで本屋をやってください。

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