セッション
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いのちのヴァイオリン 中澤 宗幸 氏
5. ヴァイオリンとの出会い(生きることと音楽 ①)
中澤さんは、幼少の頃、お父様にヴァイオリンを習われたとあります。ヴァイオリンとの出会いはどのようなものだったのですか? 僕の親父は明治の人間です。山林業を営んでいました。杉や檜や松を植林して、間伐して、伐採して、製材する。そして建築する。だから、小さい頃から僕は「木」に親しんで育ちました。けれど父の仕事がうまくいかなくなって、一家が路頭に迷うような時があったのです。
そんなどん底からの「再生」の頃、なんでも器用につくってしまう父親が、見よう見まねでヴァイオリンをつくったのです。それで、夕食の後、僕たちにヴァイオリンを弾いて聴かせてくれた。みんなで父のヴァイオリンを聴きました。父が弾いてくれたのは、童謡、例えば「赤とんぼ」とかだったと思います。また、船頭歌をたくさん弾いていたように思います。一家を船に乗せて、なんとか自分が引っ張って家族を守っていかなくては、という父の思いが、船頭歌に込められていたのではないかと思いますね。今となっては、どんなつらい思い出も美しく思い出すものになっているのかもしれませんけれどね。 父の言葉が今もずっと私の胸にあります。「お金は大事にしろよ。でもなあ、お金に動かされるような人間にはなるなよ」「どんなときでも、音楽はいいものだよ」「生きていることは、それだけで難しいことなんだよ」 この3つの言葉で、私は養われてきました。心の支えです。 → 次のページ「6. ヴァイオリンは特別な楽器ではない」
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