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セッション
新しい広場をつくる  平田 オリザ 氏
1.主催者あいさつ
2.宮沢賢治の農民芸術論から話をはじめよう
3.社会における芸術の役割 ①
4.社会における芸術の役割 ②
5.社会における芸術の役割 ③
6.スラム化する日本社会 ①
7.スラム化する日本社会 ②
8.スラム化する日本社会 ③
9.都市-地方間の歴然たる文化格差
10.新しい「広場」をつくる ①
11.新しい「広場」をつくる ②
12.宮沢賢治の農民芸術論で話を終えよう
10.  新しい「広場」をつくる ①

社会的弱者(若者、ホームレス)の居場所をつくる

さきほど、地方では若者の居場所がない、という話をしました。が、東京の渋谷も、資本の論理だけでまちをつくった(本来ならあるべき都市計画的発想がまったくない)ために、若者の居場所がない。渋谷は実にいびつなまちです。とてもオシャレで今風のキレイな場所に、ホームレスの汚物がいきなり転がっているという風景が当たり前。
居場所のない若者たち、不良少年が、渋谷からいっぱい出てきた。彼ら「チーマー」は凶悪化・反社会化して「半グレ」と言われる集団となり、隣の六本木に繰り出すようになる。そこで、テレビでも報道されたような、凶悪な事件を引き起こすようになっていくわけです。

もちろん、暴力沙汰はいけませんけれど、これは彼らだけが悪いのではない。こんな渋谷をつくってしまった社会に責任があるのだと、私は思わずにいられないんですよ。若者やホームレスを徹底的に排除してきたことに原因がある。排除することでは、なにも解決しません。居場所を求めてさまよう彼らを排除すればするほど、彼らの中に反社会的な思想が育まれ、それはいつか行動として爆発して世の中を驚かせることになる。

まちの中に、社会の中に、社会的弱者の居場所をつくることがどれだけ大事なことか、みなさんには今一度考えていただきたいと思うのです。例えば、「あの人は生活保護もらっているくせに、昼間っから映画を見に行くなんて、けしからん!」と思うのではなくて、「ああ、あの人、元気にやってるな、よかったよかった、映画を見に来てくれてありがとう」と思う社会全体の思考への転換です。

また、引きこもっている人の多くが、コンビニと図書館にだけは行けるというんですね。今、図書館はしゃべってはいけない場所、静かに本を読む場所としてだけ機能していますが、カウンセラーを配置して話をしてもいい場所を一部屋つくる、そこで引きこもりの人が少しずつ話せるようになってきたら、例えば、読み聞かせの企画を行って、ちょっとずつ誰かに向けて声を出す場をつくる。引きこもりの人たちに「居場所」と「出番」を与えていく。そういう発想がなにより大切です。社会学的にはこれを「社会包括」と言います。

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