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セッション
新しい広場をつくる  平田 オリザ 氏
1.主催者あいさつ
2.宮沢賢治の農民芸術論から話をはじめよう
3.社会における芸術の役割 ①
4.社会における芸術の役割 ②
5.社会における芸術の役割 ③
6.スラム化する日本社会 ①
7.スラム化する日本社会 ②
8.スラム化する日本社会 ③
9.都市-地方間の歴然たる文化格差
10.新しい「広場」をつくる ①
11.新しい「広場」をつくる ②
12.宮沢賢治の農民芸術論で話を終えよう
4.  社会における芸術の役割 ②

共同体の記憶を受け継ぐ、そして、そのことによって共同体を維持する。

芸術が社会に果たす役割の二つ目は、コミュニティを維持していく要としての役割です。芸能のはじまり(これについて話し始めると、もうそれだけで一日が終わっちゃうから、今日は話さないでおくんだけれど)は、古代の人々が、「こんな大きなマンモス捕れちゃった!」ってうれしくて歌って踊ったのが、ダンスや音楽の起源だったり、「今日の狩りはこんな感じだったよ」って伝えるために洞窟に描いたのが絵画の起源だったりするわけですが、いずれにせよ、彼らが体験した喜びや感動が、彼らの所属している共同体に共通の「記憶」として、ダンスや音楽や絵画を通して受け継がれていく。芸能・芸術とはまずそういうものです。

共同体に共通の「記憶」として受け継がれてきた芸能・芸術は、東日本大震災によって、ことごとく途切れてしまった。受け継がれてきた地域のお祭りや伝統の芸能が途絶えてしまった。東日本大震災は、その問題を非常にリアルに私たちの前に提示しているわけですが、まつりを維持するどころではなかったということもあります。復興という一つの言葉に対しても、それぞれの思いがあって、人々の気持ちはバラバラでまとまらなかった。

そんな中、非常に興味深いデータがあります。高台への全村移転の合意形成の早かったまちと、伝統のまつりや芸能が復活したまちが、ぴったり一致したのです。「なあ、まあ、いろいろあるけどよお、みんなで移るべ」と、住民の気持ちが早い段階で一つになれたところは、その地域が持っていた「宝」であるまつりをすぐに復活させることができた。「みんなでもう一回、まつりをやるべ」って。そういうものなんです。

まつりは失ってしまってからでないと、その大切さが分かりません。そしてまつりを行うことは、共同体の思いが一つになっていなければ成り立たないものなのです。宮城県女川町では、獅子舞が復活していったところから、高台移転の合意形成が成り立っていった。共同体の記憶を受け継ぎながら、人や共同体のつながりを形成していくことは、芸術が私たちにもたらす非常に重要な役割の一つと言えます。

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