セッション
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新しい広場をつくる 平田 オリザ 氏
3. 社会における芸術の役割 ①
人の心に直接的に働きかけて感情をゆさぶる、心を救う。 ここにいらっしゃる皆さんは、芸術に何の意味があるのだとか、そんなことはおっしゃらない方ばかりですよね。文化政策(そこにどのようにお金が流れていてどんな効果が期待できるのかいうことについては、非常に見えにくいので、把握しにくいのですが)の大切さもご理解されていると思います。「芸術」が一体何の役に立つんだ!という議論は、みなさんもよく耳にされていて、しかし、そのことについて明確に反論できる方は少ないかもしれない。 芸術がなんの役に立つのか。まず一つ目には、人の心に及ぼす影響です。私たちの生活をちょっと見渡してみれば、「芸術」がいかに私たちに密接であるかが分かる。例えば、卑近な例ですが、カラオケに行ってわぁーっと歌う。声を出して歌うことで得られる快感やストレス発散の気持ちよさがある。カラオケに行って気持ちよかったということは、歌を歌うという紛れもない「芸術」行為(たとえそれが AKB の歌であってもですよ)であるわけです。そして、その「歌」は、西洋の五線譜を使って広く「音楽」として伝達されてきた歴史の上にあるものです。
人は100年前の音楽で励まされることもある。一つの音楽は100年後に多くの人の心を揺さぶることができる。つまり、私たち芸術家の仕事は、いつ、誰のために役に立つのか分からないのです。人は、何によって、いつ、芸術の恩恵を受けるか分からない。私たちは意識することなく、多くを「芸術」に負っている。計り知れない。そして、その効果は、即効性があることばかりではありません。いつ、どこで、何が効果を発するか分からないもの、それが「芸術」なんです。私たちは、どれだけ「芸術」に救われているか、当の私たちはそのことをあんまり認識していない。 そういう点で、文化政策は究極の「公共事業」であるとさえ言えます。通常の経済活動とちがって、いつ誰に役に立つか分からない芸術には、二つの課題が考えられると思うんです。つまり、① 投資の効果が出るのに時間がかかる(あるいは効果がでないかもしれない)、② 芸術の恩恵を受ける人の幅があまりにも広いので、誰からお金を徴収していいか分からない、という2点です。だからこそ、公共事業として「芸術文化活動」について果たす役割は大いにあると思っています。行政でなければ、だれがこの問題を解決できますか。 → 次のページ「4. 社会における芸術の役割 ②」
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